映画が始まると、映画館が潮の香りに包まれるような錯覚を覚えた。
やがて祝島が見えて来る。潮の香りが漁港を漂い、
やがてほのかな山の香りと混じりあう。
小さな町。
おじちゃん、おばちゃん、こどもたちの声が聴こえて来る。
誰もがユーモア満点、島の生活者としてのつよさがまぶしい。
中でも飄々とした、島のお年寄りのあの明るさ。
思わずこちらも笑みがこぼれる。
でも映画を観た後の私は知る事となる。
あの明るさは、遠く、深いまなざしに裏打ちされたもの。
映画『祝の島』で切り取られた風景は本当に宝の島のようで、まさに西村繁男さんのあの画のよう。
それは日常の風景であればある程、印象的なものとなり、スクリーンから遠く離れた場所にいても、ふとした時に思い出してしまう。
島じゅうを巡る、あのきれいな曲線を描く道のこと。
山道を登るおばあちゃんのこと。
小学校で歌われていたあのいい歌。
船の手入れはしているかな。
石垣にからまったクズの葉はだいじょうぶかな。
不運なタコ君は潮風に吹かれてもっとおいしくなったかな。
それから、思いは未来へと。
祝島と、その外の世界の暮らしは、これからどのように変わっていくのだろう?
暗い未来はごめんだ。
薄っぺらに便利な暮らしのための犠牲、なんてやめてくれ。
映画の中の祝島を巡る微かな回想と未来への思いが、ちょっとずつ、結び目をつくって
まるで小さな『祝の島』が心の中に生まれた様な、そんな気がする。
nakaban (画家)
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広島県出身。絵画を中心に活動。
最近の代表作はアニメーション作品の『Der Meteor』(noble)、
絵本の『ころころオレンジのおさんぽ』(イーストプレス)など。
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